リモーネ

映画。小説。

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天使にかまれる

 
朝、起きてみると、台所に見知らぬ男がいた。
あたしは、ビクリとして尋ねた。アンタ、誰?
すると奴は、ジッとあたしを見ながら、いきなり牛乳瓶を突き出してこう言ったのだ。
「おまえ、これ飲む?」
「い、いらない!」
多分、こいつは姉貴のボーイフレンドだろう。
誰が、こんな奴の飲みかけのものなんて飲むもんか…。
不真面目な奴だなぁと、あたしは思った。
うちの姉貴は、大学に行きながら、結局のところ遊んでばかりいるのだ。
類は友を呼ぶとは、このことだ…。
冷蔵庫から取り出した新しいミルクを飲み干して、プイッと立ち去ろうとした。
その瞬間、男が真面目な顔をして言った。
「おい、坊主、そこ、ヒゲ!」
「はっ…?」
キョトンとしてしまう。
そしたら、男はクスクス笑って言う。
「白いヒゲだよ…。牛乳を飲んだせいだよ…」
「なっ…」
ヒゲのことも、もちろんショックだった。でもそれ以上に、このボーズという言葉に対して驚いていた。
(こいつ…、あたしのことを男の子と間違ってる!)
すぐさま間違いを訂正してやろうかと思った。でも、やめた。
あたしは、英語の勉強をするために2階の部屋へ戻っていく。
(んー…、でも、あたし、先刻の男、どこかで見たような気がするんだなぁ…。でも思い出せないなぁ…)
しかし、えんぴつを握りしめた瞬間、ハッと思い出したのだ。
“あっ…、あれは、うちの中学に来た新米教師だ!”
ああいう、たわけ者がセンセイなんてさぁ、世の中、どーかしてる!
それでなくても、学校にいる奴らって馬鹿ばっかりなのにさぁ…。
「あ~あ、学校なんてつまんないなぁ…」
あたしは、ベットに寝転がったまま溜め息をついてしまう。
『学校なんて大嫌い…』
今すぐ、ドラエモンの四次元ポケットの中に放り込んでやりたい…。
『みんな、くたばっちまえばいいのに』
心の中で呟きながら、早く、イギリスに行きたいなぁと思った。

                          ◇

あたしが特にキライだと思うのは、幼稚っぽいイタズラをする奴だ。
(また…、こんなものを入れてる!)
下駄箱にデン! と、汚れたゾウキンが詰め込まれているのを見た瞬間、ああまたかぁ…と思った。
これって、一種のイジメかもしれない。
特大デブのタケシは、ほぼ毎日、こんなふうにして、いやがらせをするのだ。
中学に入ってからも、こいつと同じクラスになるなんてついてない…。
「ぎゃあっ! タケシの奴、またこんなことしているの! ねぇ、詠美、先生に言いなよ!あの馬鹿、一回殴ってもらわなくちゃ治んないよ」
と、レーコが言う。
レーコは、すっごく脚が綺麗でパリコレのモデルみたいに垢抜けた顔をしている。
このクソ面白くない学校の中で、唯一カッコいい女の子なのだ。
あたしは唇を尖らせながら言った。
「あの馬鹿、殴るんだったら、自分でやってやる!」
「でもさぁー、ここまでしつこく虐めるってことはさぁ、あんたに気があるんじゃないの?」
と、レーコ。
「あー、やめて! 気持ち悪い! そんなこと想像しただけでゲロ吐いちゃう!」
あんな奴に好かれるなんて最大の屈辱だ! それなら、まだ嫌われている方がいい。
“馬鹿とはかかわりたくない…”
毎日毎日、こんな所に通わなくちゃいけないなんてゴーモンだ…。
義務教育じゃなかったら、とっくの昔にやめてるのになぁって思う。

そんなふうに思っていたら、あの例の牛乳男が来たのだ。
こともあろうか、あたしの大好きな英語の教科書を持って。
予想した通り、あいつは、あたしがクラスにいることにはまるで気付いていなかった。
「えっと…、とりあえず、このCDの声と一緒に本を読んでもらおうかな」
と、あいつが言う。
でも、流れてきたのは、あたしの知らないミュージシャンの歌声だった。
「あーっ、違う。こ、これは、なつかしいスティングの歌だった。わりぃ、わりぃ…」
みんなが、どっと笑う。
(あいつ、やっぱり、アホだわ…)
とてもじゃないけど、高村先生なんて呼ぶ気がしない。仕方ないから呼ぶけどさ…。
「センセェ! 気分がわるいから保健室に行きます!」
ささっと、立ち去ろうとする。
あいつは、ちょっと間を置いてから、ハッとしたように怒鳴ったのだ。
「おい、ボーズ! ちょっと待て!」
「なっ…!」
なにがボーズよ。確かに、今日もブルージーンズの半パンツはいてるけどさ、よく見りゃ、ちゃんと女の子だって分かるでしょ! 馬鹿!
「おまえ、なんで、そんなに元気なのに保健室に行くんだよ…?」
「…そんなの勝手でしょ! 行きたいから行くんです!」
今まで、あたしが保健室に行くのを止めた先生なんていなかった。
それは、あたしがすごく成績のいい子だからだ。
それに、『ちょっと変わってる』と思われているので、みんな深くあたしのことを追求したりしないのだ。
(あたしは我が道を行くもんね…)
うちのお姉ちゃんのボーイフレンドだからって、あたしを引き止める権利なんてない。
なのに奴は言ったのだ。
「おまえ、そんな頑なな態度を取っていると、女の子にモテないぞ」
「なっ…」
なに言ってんのよ!
(信じられないっ!)
今まで我慢して保ってきたオツムの線が、プチッと切れる音がした。
と、同時に、クラスのみんなが大声で笑い出したのだ。
“ボーズ、ボーズ”
レーコまでもが、ニヤニヤ笑いながら、その言葉を口の中で呟いている。
「どうした…? 森高、ションベン我慢してるのかぁ?」
何を勘違いしたのか、奴があたしに向かって言う。
するとタケシが手を上げながら、うれしそーに言った。
「センセェ、こいつ、オチンチンないから立ちションできませーん!」
そしたら、奴は、あたしを眺めながら笑って言ったのだ。
「へーえ、そう…。おまえ性転換したの?」
「…なっ!」
あまりにもアホらしくて・・反論する気にもならない。
「ホラホラ、とにかく、いつまでも立ってないで席について教科書を読みなさい」
「………」
クソクソッ。調子が狂うったらありゃしない。
いつもなら、ちゃんとサボってたのに…。
もうこれ以上ドツボにはまりたくなかったので、あたしは、そのままおとなしく座って、教科書を読み出していた。

                           ◇

「ぐっ、ぐやじーーーーーっ!」
家に帰ってからも、まだ腹が立っていた。
うちのお姉ちゃんて、前からアホだと思っていた。
あんな男と付き合うなんて、救い難い馬鹿だわ…。
ひとこと文句を言ってやろうと思って、部屋を覗いたとき、電話をしている声が聞こえてきたのだ。
「やったじゃん。あの変わり者が、あんたの授業、ちゃんと受けたんだぁ。良かったじゃない…。うん、そうよ。まともに相手をしちゃダメよ。そう、その調子でがんばってね。バーイ!」
もちろん、それだけで、あたしには分かった。今日のあいつのアレが、わざとだってことに…。
「お姉ちゃんっ!」
あたしは、だらしない格好で寝転がっているお姉ちゃんに向かって問い詰めていく。
すると、シャラッとして言ったのだ。
「そうよ。あたし、教えてあげたの。うちの妹は、先生泣かせの名人だから、フツーの方法で接したらダメだってね」
「へんなことしないでよ!」
ムカッとして怒鳴っていた。
「放っといてよ! 先生の言うことなんて聞かなくても、あたし、ちゃんとやれるんだから!」
「あんたさぁ…」
お姉ちゃんは、不意に真面目な顔をしてこう言った。
「あんた、世の中で自分がいちばんエライと思ってんでしょ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんなことはない…。そう言い返そうとしてやめた。
一番エライとは思ってないけど、あいつらよりはエライと思っているのは事実だからだ。
そんなあたしを、お姉ちゃんは哀れむような目で見ている。
「あんた、さようなら魔法使い、っていう映画、観たことある? あんたにソックリよ」
そして、捨て台詞のように言った。
「言っとくけど、あんたガキよ。なんでもできると思っていたら大間違いなんだからね」
「お姉ちゃん、あたし、子供じゃないわよ…」
だって、もう何だってできるからだ。
なのに、お姉ちゃんは、そのエッチっぽい胸を揺らしながら、せせら笑った。
「まぁ、そう思っているうちが花よね…」
その言葉が、不思議なくらいリアルに響く…。ような気がした。
『大人…?』
でも、大人になるって何だろう…。
よく分からないや…。
あたしは、クッションを抱きしめながら、部屋で昔に流行った曲を聞いていた。
オムニバスのCDの中に入っていた曲。
ベットショップボーイズ。
『哀しみの天使』って、なんかいい曲だな…。
そんなことを思いながら、一緒に歌った。

                              ◇

その翌日のことだった。あたしの渾名は、“ボーズ”になっていたのだ。
さっそく、クラスの女の子たちが、あたしに話しかけてくる。
「森高さぁーん! 今日はスカートなの? 珍しいねっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
あたしは、めんどくさいから返事をしなかった。
そのまま、スーッと屋上へ向かって歩いていく。
今までは、みんなと同じ格好をするのがイヤで、髪型も服装も変えていた。
別に、目立ちたかったわけじゃない。
ただ、何となくイヤなのだ。みんなで、ダラダラと馴れ合うのが…。
なんか、そういうのってたまんない。
“苦手だなぁ…”
あたしは、芸能人とかに興味はないし、サッカー選手だとか、ミュージシャンとか追いかけたいとは思わない。
ただ、ひとりでイギリスに行きたいなぁって思う。
あそこに行けば、逢えるかもしれない。
昔、絵本で見たような天使やサンタクロースが、そこらへんにいて、フツーに暮らしているような気がするのだ。
なんつっても、あのストイックな感じがいいのよね…。
『きっと、あたし、生まれる前は、イギリス人だったんだわ・・』
根拠なんてないけど、そう思う。

日本は、雑音が多過ぎるよ…。
なんで、みんな、あたしをそっとしておいてくれないんだろう…。
屋上にひとりでいるあたしを見つけたルルが、駆け寄ってきたのだ。ルルは、隣のクラスの女の子だ。いつも、唇にグロスをべっとりつけている。
「ねぇねぇ、聞いたわよぉ。あんた、あの高村センセェに丸め込まれたんだってぇ?」
馴れ馴れしく、あたしの肩を触っている。
「くやしーのよ。あたしもサボろうとしたら止められてさぁ。あいつ、人の良さそーな顔してるけど、イヤな奴よねぇ。ムカつくから、これ、パクッてきちゃった…」
「ふうん…」
また、人のものを盗ったのかぁ…。
ルルは、得意そうに、その腕時計を太陽の光に向かってかざしている。
『別に、あんたが何をしようと勝手だけどね。いちいち、それをあたしに見せないでよ』
かかわりたくないのに。かかわりたくないのに…。
その時計は、うちのお姉ちゃんが買ったものだったので、言わずにはいられなかった。
「それ、高いのよ」
「へーえ、ほんと? ラッキー!」
職員室からくすねてきた煙草を吸いながら、ヘラヘラと笑っている。
ルルは、死ぬまで、こんなふうにして生きるのかなぁ…。
(やりたい放題にやっちゃってさ…)
もしかすると、あたしも、この子と同類だって、みんなから思われているのかもしれない。
「ルル、その時計、高村センセェに返してよ。それ、大切なものなんだよ」
「やーよ! なんで、あんた、センセェの味方すんのよ! 好きなのぉ!」
「・・バカなこと言わないでよ!」
もう、なんで、みんな、そういう発想で考えるんだろう…。
「好きじゃないけど、返してあげたいのよ! ただ、それだけよ! だから、返して!」
「やーよっ!」
ルルが、ムキになって時計を抱え込もうとした。あたしは、ルルからそれを奪い返そうと必死になる。
そして、ついに殴り合いになった。ルルが、あたしの顔を思いっきり、ギリッと強く引っ掻いたのだ。
「いたぁっ、なにすんのよっ!」
その瞬間、あたしは、強くルルの背中を突き飛ばしていた。あっと、思った直後、ルルはフェンスで頭を打って、そして、そのまま動かなくなっていた。

                               ◇

「理由を言いなさい、理由を…」
あたしは、教頭に何度も怒鳴られたけど、言わなかった。
もちろん、頭を打って、軽い脳しんとーを起こしたルルも、時計のことは言わなかった。
(自分が盗んだなんて言えるわけがない…)
結局、あたしたちは、授業をサボって、煙草を吸い、あげくの果てにケンカをしたということになり、すごーく叱られたのだ。
「あたし、煙草なんて吸ってませんっ!」
何度も言ったけれど、信じてはもらえなかった。それどころか、言い訳するなと言って、乱暴に右頬をバシッと殴られたのだ。
「…いたいっ」
あのオヤジ、人の顔を何だと思っているのよ!
(顔中がヒリヒリする…)
職員室から出て、ひとりで歩いているうちに、本当にもう何もかもがイヤになっていた。
『あんた、世の中で自分がいちばんエライと思ってんでしょ?』
お姉ちゃんの言葉が、頭の中でグルグル回って消えない…。
すっかり暗くなっていた。
「おまえ、まだこんな所にいたのかよ…?」
戸締りの点検をしにきたらしい…。
高村が、教室に入ってきた。
そして、あたしを教室から追い出しながら言う。
「おまえさぁ、アホだなぁ。ケンカしたんたって・・? バレないように、もっと上手にやれよなぁ…。だいたい、何で、あいつとケンカなんかしたんだよ?」
なぁんにも知らない高村。
少し肩をすくめながら呟いている。
「まぁ、言いたくないならいいけどさ…」
「・・・・・・・・・・」
あたしは黙ったままポケットから時計を出してくる。
そして、高村の目の前に突き出した。
「えっ…?」
一瞬、高村の瞳の色がガラッと変わった。
『これ、おまえが盗んだのかよぉ・・・』
そう言って、また殴られるかもしれないと思って素早く目を閉じた。
でも、高村はぶったりしなかった。
その代わり、あたしの頬をガシッと片手でつかんで、持ち上げながら言う。
「あ~あ、可哀想になぁ…。女の子なのに、こんなに顔を腫らしちゃってさぁ」
「・・・・・・・・・」
あたしは、瞳を開いた。
「やっと認めたわね・・。あたしが女だって」
「…そんなの、最初から知ってたよ」
そう呟く高村の顔は、すごくいいなぁと思った。
「なぁ、おまえさぁ…、なんで、この時計のこと教頭に言わないんだよ?」
「言いたくないから…」
多分、こういうところが変わっているんだ。あたしは、自分でも変な奴だなぁと思う。
「そういうことは、言えばいいのに…」
高村は、シニカルに笑う。

「じゃぁ、さようなら…」
あたしは、高村に手を振りながら走り出してゆく。
でも、先刻は、すごーく目の前に顔があって…。




あんなふうに、見るんだもん。
男の人のああいう顔って、はじめて見た…。


もしかすると、いきなり強引にキスされるのかと思ったのだ。
それじゃぁ、まるで、あたしの大嫌いな少女マンガみたい…。
『高村センセェが、ロリコンでなくて、ほんとうに良かった・・』
校門を出るまでは、そう思ってた。
なのに、またひとりになった瞬間、すごく不安になって、泣きたくなった。
こういう気分のことを、あの国ではこう言うんだ。
“天使にかまれる”って…。

                                 ◇

その次の日、みんながあたしを見ているような気がしてイヤだった。
顔には、デッカイ絆創膏。
あたしのケンカのことを、みんながウワサしている…。
(もう、こっち見ないでよ…)
どうせ、みんな、あたしのことをすんごい変人とかって言ってんだろうな…。
そう思うと、ムシャクシャして哀しかった。
そんな時、あのタケシが来たのだ。
「なぁ、おまえ、あの篠崎ルルとすっげぇ大ゲンカしたんだってなぁ・・」
「そこ、どいてよ、馬鹿!」
あたしは、タケシを睨みつけていく。
『それにしても、あたしは、どうして、こんなに攻撃的なんだろう…』
うまくいかない。
いろんなことが…。
(どうしたらいいんだろう…。どうしたらいいんだろう…)
そんなあたしに向かって、タケシが言った。
「おまえ、何だよ! なんでいつも、そんなに威張ってんだよ! 何様だと思ってんだよ! そんなにおまえはエライのかよぉ! おい、森高! 返事しろよ!」
「・・・・・・・・・・」
困るよ…。
だって、自分でもよく分からないんだもん…。
何でこんなふうになっちゃったのか…。
いつも、他の人たちとの会話をないがしろにしてきた罰だ…。
『ばっかみたい…』
いつも、そんなふうな顔をして生きてきた。
あたしは、まるで、この世界で一人暮らしをしているような態度をとってきたけど。
でも、本当のことを言うと…。
『あたし、ほんとは、みんなと仲良くなりたいのに・・いつも反対の態度ばかりとってしまう…。どうしてなんだろう…』
いつも自分のことを、馬鹿みたいって思っている。ほんとうは…。
(ほんとうは・・・・・)

「…も、もりたか?」
ビックリしたように、タケシが、じーっとあたしを見ている。
「えっ…、あっ、おまえ…」
「・・・・・・・・・・」
あたしは黙ったまま、すんごい形相で泣いていた。もう涙がとまらない。
廊下の真ん中で、そのままポロポロ泣いていた。
みんなが遠まきにして、こっちを見ている。
たくさんの人の中に、高村先生がいるのが見える。
でも、ただ見ていた。
あいつには、きっとわかっているんだろう…。
『なんで、あたしが泣いているのか…』
理由さえ解ってもらえたら、それでいいのだ。
別に、チヤホヤされなくてもいいし、過剰に守られなくてもいい。
そうなのだ…。
ただ、理解してもらっていたら、それでいい。それだけのことなんだから…。

「も、森高さんっ!」
突然、クラスの女の子の一人が目の前に飛び出してきた。
「あ、あっちに行こう! タケシのことなんて気にしちゃダメよ…。あの子、口が悪いからさぁ…」
言いながら、あたしの腕をグイグイ引いていく。
「あのね、あの子ね、森高さんに相手にされなくて怒ってるだけなのよ、ねっ…」
「えっ…?」
ビックリした…。
だって、いつのまにか、クラスの女の子たちが、あたしを取り囲んでいたからだ。
そして、口々に言う。
「森高さんさぁ、ルルのこと、ぶっ飛ばしてくれたんでしょ! あたし、それ聞いて、スカっとしたぁ!」
「そうよ! あたしも、あの子にお気に入りのスニーカー盗られて悔しい思いしたことあるのよ・・」
「そうそう、あたしもおんなじ…」
みんなは、そう言って、まるで、あたしを励ますかのように笑っている。
『おどろいた…』
まさか、こんなふうに迎えられるなんて思ってもみなかったからだ…。
今まで、あたしは、本当に何もわかっていなかったみたい…。
『人の言葉を必要としていた…』
言葉は、たくさん、溢れていたのに…。
それなのに、自分から無視していたんだ。
あたしは、今まで…。
ずっと、ずっと。
人のことを馬鹿にしてきたから、見えなかったのかもしれない。
『ちょっとしたきっかけ…』
これさえあれば、何かが変わるのに…。
そのことに気付こうともしなかったなんて・・。
ほんとに、あたしはアホだ…。
「ねぇ、森高さん、その傷、だいじょうぶ?」
「うん…、ぜんぜん平気」
そう言って、今まで人に見せたことのないような顔をして笑っていた。

                                    ◇

だからといって、そんなに急に生き方を変えられる訳でもない…。
「おはよう…」
レーコが、いつもの如く、だるそうに欠伸をして言う。
「ねぇ、サボろーか? 高村の英語・・」
「うん、ダルイよねー・・。授業なんてサボっちゃおうかなぁ」
言いながら、下駄箱のフタを開けていく。
「あっ…」
そのとき、それが、パッと目に入ってきてハッとなった。
「なぁーに? また、タケシのいやがらせぇ?」
と、レーコ。
「ううん…。違う、違うよ」
思わずあたしは、プッと吹き出していた。

昨日はゴメン…。
by タケシ


ゲタ箱に、メッセージとデッカイ絆創膏の箱が入っていたから、笑っちゃった。
『あいつ、やることが可愛いじゃんかよぉ…』
だからってさぁ、あいつのこと、いきなり愛してしまうようなこともないけどさ…。
でも…。
今度、目が合ったら、ニッと笑ってみようかなぁと思った。
そして、大ブタっていう渾名を、デーブ君に変えてみよう…。
そんなことを思いながら、絆創膏をポッケに入れた。






※この短編は、昔、ワタシが雑誌に掲載したものです。加筆訂正ました。


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美緒

Author:美緒
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